光聴
岡田一実[著]
句集
田中裕明賞受賞の前句集『凧と円柱』(2014 年)よりおよそ 6 年後の著者第 3 句集。
火が紙にくひ込んでゐる麦の秋
ストローを銜へるひとりづつ霞
消ゴムに小暗い栗鼠をからめとる
いうれいは給水塔をみて育つ
ラクロスは兎の夢で出来てゐる
こはるびの粒々のパラシウトたち
t t t ふいにさざめく子らや秋
つきゆびは歌をとめどもなく辿る
あきらかに私の位置に鹿が立つ
粒々であり、波であり、
そんな句が澄ましていきいき並ぶので、
なんだか光にあふれています。
一句ずつ、ちゃっかり意識を持っていそう。
――『ガイコツ書店員 本田さん』『ほしとんで』作者、本田さん
生えている句を作りたい、と思ってきた。草や花がそこにあるように、俳句もまたある。草や花が何かの代わりとしてそこにあるのではないように、俳句もまた何かの言いかえとしてあるのではない。(……)だから私は俳句を、記録や報告や手紙、あるいは日記とは違って、造形物とか音楽に近いものだと思ってきた。今もそう思っている。
Ⅰ
トレース
トーン
プリズム
35°37'34.9"N 139°26'13.9"E
37°21'56.3"N 140°59'44.9"E
Ⅱ
きのふの今
手
兎の夢
目星
めくれ
乱父 #lamphike
らとみくす
ふぁみら
サドル式
薊
Ⅲ
私
35°29'09.6"N 139°42'02.6"E
匚
35°22'44.7"N 139°55'25.8"E
蝕
体
あとがき
鴇田 智哉(ときた ともや)
1969 年千葉県木更津市生まれ。1996 年俳句結社「魚座」(今井杏太郎主宰)にて俳句を始める。「魚座」終刊にともない、2007 年「雲」(鳥居三朗主宰)入会、編集長。「雲」退会後、2015 年に俳句同人誌「オルガン」創刊参加。俳句研究賞、俳人協会新人賞、田中裕明賞受賞。句集に『凧と円柱』(2014 年、ふらんす堂)、『こゑふたつ』(2005 年、木の山文庫)。
『エレメンツ』収録の句についてのレビュー @泣きみかん放送協会